脱炭素・次世代エネルギー領域で、新規事業の種を探すよう指示を受けたものの、フュージョンエネルギーの基本がよくわからない。そんな担当者に向けて、この記事ではフュージョンエネルギーの仕組みや原子力発電との違いをわかりやすく解説します。

実用化の時期や世界・国内の開発動向はもちろん、大企業が新規事業として関与できる領域までまとめました。社内の検討資料づくりに役立ててください。

フュージョンエネルギーとは何か

フュージョンエネルギーとは

フュージョンエネルギーとは、軽い原子核同士が融合する際に発生するエネルギーです。太陽の内部で起きている反応と同じ原理を、地上で人工的に再現する技術として注目されています。

まずは核融合反応がどのような仕組みで起こるのか、そしてこの呼び方がどのように定着してきたのかを解説していきます。

核融合反応が起きる仕組み

核融合反応とは、重水素と三重水素という2つの軽い原子核が、超高温状態で衝突し融合する反応です。

融合の結果、より重いヘリウムの原子核と中性子が生まれ、その際に大きなエネルギーが放出されます。この反応を安定的に起こすために必要な条件は、次の3つです。

  • 1億度以上の超高温状態を作ること
  • 原子核を高密度な状態に保つこと
  • その状態を一定時間維持すること

これらの条件がそろうことで、原子核同士の反発力を上回る速度で衝突が起こり、核融合反応が持続的に進みます。太陽の内部も、同様の超高温・高密度な環境にあり、絶え間ない核融合反応が続く仕組みです。

フュージョンエネルギーという呼称の由来

核融合を利用したエネルギーは、以前は「核融合エネルギー」という名称で呼ばれることが一般的でした。しかし「核」という言葉には、原子力発電や核兵器を連想させる響きがあるのも事実です。

政府が2023年に決定した国家戦略では、核分裂とは異なる安全性を持つという技術的な特徴に加え、英国や米国でも学術用語の「Nuclearfusion」をエネルギー分野では「Fusion」と呼ぶ動きが広がっていることを踏まえ、核分裂との混同を避けるために「フュージョンエネルギー」という呼称を用いると明記しました。

以降、日本国内でもこの名称への統一が進められています。

フュージョンエネルギー発電の仕組み

フュージョンエネルギーとは

フュージョンエネルギーを発電に利用するには、核融合反応を一度きりで終わらせず、安定して持続させる必要があります。そのためには超高温状態を人工的に作り出し、その状態を保つ技術と、発生した熱を電気に変える技術の両方が必要です。

ここでは、核融合炉がどのように超高温状態を維持し、そこから電力を生み出しているのかを解説します。

プラズマを閉じ込める核融合炉の原理

核融合反応を起こすには、燃料となる重水素と三重水素を1億度以上の超高温状態にする必要があります。この温度になると、原子は電子と原子核に分かれて自由に飛び回る「プラズマ」という状態になります。プラズマ中の原子核はプラスの電荷を持っているため、通常は反発し合って衝突しません。

超高温下で原子核の運動速度を高めることで、この反発力を上回り、核融合反応が起こる仕組みですが、問題となるのは、この超高温状態をどう維持するかという点です。容器の壁に触れれば一瞬で冷えてしまうため、プラズマを壁から離した状態で閉じ込める技術が求められます。

現在最も有望とされているのが、超伝導コイルで作り出した強い磁場でプラズマを閉じ込める「磁場閉じ込め方式」です。

プラズマは磁力線に沿って動く性質を持つため、ドーナツ状の磁場を作ることで、プラズマを容器内壁に触れさせずに長時間閉じ込め続けることができます。

核融合反応の熱を電力に変換するプロセス

核融合反応によって重水素と三重水素が融合すると、ヘリウムの原子核と中性子が高速で放出されます。この中性子を受け止めるのが、炉を取り囲む「ブランケット」と呼ばれる構造材です。

ブランケットは中性子の運動エネルギーを熱に変換すると同時に、将来の燃料となる三重水素を生成する役割も担います。発電までの流れは、以下の通りです。

  • 中性子がブランケットに衝突して熱が発生する
  • その熱を冷却材が受け取り、蒸気発生器に運ぶ
  • 蒸気の力でタービンを回し、発電機を動かす

蒸気でタービンを回す工程自体は火力発電などと共通する部分ですが、中性子から熱と燃料を同時に取り出すブランケットの存在が、フュージョンエネルギー発電に特有の技術といえます。

フュージョンエネルギーと原子力発電(核分裂)との違い

フュージョンエネルギーとは

フュージョンエネルギーと原子力発電は、どちらも原子核を扱う技術ですが、エネルギーを生み出す原理が正反対です。前者は原子核を「融合」させ、後者は原子核を「分裂」させることでエネルギーを取り出します。この違いは、安全性や放射性廃棄物の扱いにも大きく関わってきます。

ここでは、原理の違いと、それに伴う安全性・廃棄物の差を解説します。

「融合」と「分裂」というエネルギー発生原理

フュージョンエネルギーは、重水素と三重水素という軽い原子核を融合させ、より重いヘリウムの原子核に変える過程でエネルギーを放出します。

原子力発電は、ウランやプルトニウムという重い原子核を分裂させ、より軽い原子核に変える過程でエネルギーを取り出す仕組みです。両者の違いをまとめると、以下のようになります。

原理反応主な燃料
フュージョンエネルギー融合重水素・三重水素
原子力発電分裂ウラン・プルトニウム

原子核が関わる点は共通していますが、「軽い原子核を融合させる」か「重い原子核を分裂させる」かという方向性の違いが根本的な特徴です。

この方向性の違いが、後述する安全性や廃棄物の差につながっています。

安全性と放射性廃棄物

原子力発電では、ウランやプルトニウムが分裂した後の原子核が長期間にわたり高い放射能を持ち続けます。

この高レベル放射性廃棄物は、核分裂反応を止めた後も大きな熱を発生するため、長期間の冷却が必要です。また分裂反応は連鎖的に進む性質があり、制御を誤ると反応が急速に拡大するリスクを抱えています。フュージョンエネルギーが持つ特徴は、これらとは対照的です。

  • 燃料の供給が止まれば反応も即座に停止する
  • 連鎖反応が起こらないため暴走のリスクが低い
  • 発生する放射性廃棄物は低レベルにとどまる

反応で生じるのはヘリウムと中性子であり、ヘリウム自体は放射線を出さない安全な物質です。中性子が炉の構造材に当たることで一部の放射化は起こりますが、短期間で放射線レベルが減衰する素材を選ぶことで、最終的には通常の産業廃棄物として扱える見通しが立っています。

フュージョンエネルギー実用化への道のり

フュージョンエネルギーとは

フュージョンエネルギーの実用化は、一つの実験施設が完成すればすぐに発電が始まるという単純な話ではありません。実証・原型炉・商用炉という複数の段階を経て、段階的に規模と信頼性を高めていくプロセスが必要です。

ここでは、国際プロジェクトの最新ロードマップと、その先に残る技術的な課題を解説します。

ITERプロジェクトのロードマップ

フュージョンエネルギーの実用化に向けた中核的な取り組みが、フランスで進む国際熱核融合実験炉「ITER」です。日本を含む複数の国が協力して建設を進めており、核融合反応を安全に制御できることを実証する段階の施設という位置づけです。

2024年にITERの計画が見直され、最新のロードマップは以下のように示されています。

年代マイルストーン
2033年頃ファーストプラズマ(建設完了)
2034年研究運転を開始
2035年重水素を使った運転を開始
2039年重水素と三重水素を使った本格運転(DT運転)へ移行

日本国内に目を向けると、内閣府が2025年6月に改定した国家戦略では、2030年代の発電実証を目指す方針が示されています。ITERでの実証はあくまで一つの通過点であり、その先に発電実証・原型炉・商用炉という段階が続く計画です。

参照:フュージョンエネルギー・イノベーション戦略の改定

商用化に向けた技術的ハードル

ITERでの実証が完了しても、商業炉として社会実装されるまでには、いくつかの技術的な課題が残ります。まず挙げられるのが、炉のコンパクト化です。

検討段階ではITERの1.5倍規模の原型炉も想定されていましたが、実用化を見据えるとITERと同等かそれより小さい規模に抑える方向性が求められています。その他にも、以下のような課題が指摘されています。

  • プラズマを長時間にわたり安定して制御する技術
  • 炉の内壁材など高温環境に耐える材料の開発
  • 研究開発を支える専門人材の確保と技術継承

特に人材面では、装置の制御に関わる情報工学や電気電子工学、実際の建設に関わる機械工学など、複数分野の技術者が必要とされます。

ITERでの実証というハードルをクリアした後も、コンパクト化と人材確保という2つの課題への対応が、商用化のスピードを左右する状況です。

世界と日本の開発動向と主要プレイヤー

フュージョンエネルギーとは

フュージョンエネルギーの開発は、政府主導の国際プロジェクトだけでなく、近年は世界各国のベンチャー企業による民間投資も急速に拡大しています。データセンターの増加に伴う電力需要の高まりを背景に、大手IT企業からの出資も相次いでいるのが実情です。

ここでは、世界と日本、それぞれの開発競争の現状と主要なプレイヤーをまとめました。

世界における開発競争と主要プレイヤー

世界の核融合開発をけん引しているのが、米国のスタートアップ企業です。

2025年、米国のCommonwealth Fusion Systems(CFS)は、資金調達ラウンドで8億6,300万ドルを獲得しました。創業以来の累計調達額は約30億ドルに達し、世界の民間核融合企業への投資総額のおよそ3分の1を占める規模です。

企業名(国)特徴
Commonwealth Fusion Systems(米)トカマク型。Google・Nvidiaなどが出資し、2030年代前半の商用炉稼働を目指す
HelionEnergy(米)独自方式で研究開発を推進。Microsoftへの電力供給契約を締結

Googleは電力の購入契約を結ぶなど、フュージョンエネルギーはもはや研究段階の技術ではなく、実際の電力調達先として大手テック企業から扱われ始めています。こうした民間主導の投資拡大が、世界の開発競争を加速させる要因です。

日本国内の政策と主要プレイヤー

日本では、内閣府が司令塔となり、2023年に策定した国家戦略のもとで開発を推進しています。政策面での後押しに加え、国内でも複数のスタートアップ企業が事業化に向けた取り組みを進めています。主なプレイヤーは、以下の通りです。

企業名特徴
京都フュージョニアリング炉本体ではなく、熱を取り出す装置など周辺システムの開発に特化。国内外の商社・金融機関から資金を調達
HelicalFusion磁場閉じ込め方式の一つである「ヘリカル型」で、炉本体の実現を目指す
EX-Fusionレーザーを用いた方式で、炉本体の実現を目指す

これらの企業は、業界団体「J-Fusion」にも参画し、政府の戦略と連携しながら開発を進めています。

京都フュージョニアリングは、2026年時点で累計調達額が250億円を超えるなど、国内スタートアップの中でも際立つ資金調達規模です。

新規事業としてのビジネスチャンス

フュージョンエネルギーとは

フュージョンエネルギーは、まだ研究開発段階の技術ですが、大企業にとって様子見で終わる段階ではなくなりつつあります。商社や製造業など、業種を問わず多くの企業が既に出資や技術提供という形で参入を始めているのが実情です。

ここでは、大企業の参入事例と、活用できる支援制度、自社が関わりうる関与のパターンを解説します。

大企業の参入事例

2025年、米国のCommonwealth Fusion Systems(CFS)は、三井物産・三菱商事・NTTなど日系企業12社からなるコンソーシアムから、総額約1,200億円の出資を受けました。

参画した業種は商社から金融機関まで幅広く、フュージョンエネルギーが特定の業界だけの話ではないことを示しています。主な参入パターンは、以下の通りです。

  • 三井物産・三菱商事など12社がCFS(米)へ共同出資
  • フジクラは高温超電導線材の技術を核融合炉向けの部材として供給
  • 三井物産は国内スタートアップの京都フュージョニアリングにも出資

出資先は海外の大型スタートアップに限らず、国内の専業スタートアップにも広がっており、投資先の選択肢は年々増えている状況です。

活用できる補助金・支援制度

大企業が単独で研究開発を進めるだけでなく、国の支援制度を活用しながらスタートアップと連携する道もあります。経済産業省・資源エネルギー庁は、フュージョンエネルギー分野を対象とした補助金制度を設けています。主な支援制度は、以下の通りです。

制度名特徴
フュージョンエネルギー発電実証推進事業補助金2030年代の発電実証を目指す事業者を対象に、開発費の3分の2を補助
中小企業イノベーション創出推進事業(文部科学省)社会実装に向けた大規模な技術実証を支援

いずれもスタートアップ単体での活用を想定した制度ですが、大企業が出資・提携先として関わることで、間接的にこれらの支援を活用する事業設計も可能です。

技術提供・出資・人材による関与のパターン

フュージョンエネルギーへの関わり方は、自社で炉を開発する以外にも複数の選択肢があります。自社の強みや事業フェーズに応じて、無理のない形で参入することが可能です。代表的な関与のパターンは、大きく3つに分けられます。

  • 出資型:スタートアップへの資本参加を通じて、将来的な株式価値の向上を狙う
  • 技術提供型:自社が持つ素材・製造技術を、炉の部材として供給する
  • 人材派遣型:自社の技術者を研究開発拠点に派遣し、知見の獲得や人脈形成を図る

まずは出資という形で関わりを持ちながら、自社の技術力を活かせる領域が見えてきた段階で、技術提供や人材派遣へと関与を広げていく進め方も、選択肢の一つです。

まとめ:フュージョンエネルギーの知見を経営層への説明資料に落とし込む

フュージョンエネルギーは、核融合反応を利用し、原子力発電とは異なる安全性を持つ次世代のエネルギー技術です。ITERを中心に世界の開発が進み、国内でも複数のスタートアップが実用化に向けて動き出しています。出資や技術提供、人材派遣など、大企業が関わる道は一つではありません。

まずは基本を整理した上で、自社にとってのビジネスチャンスを経営層へ提言しましょう。