社内ベンチャーで生成AIを使いたいけれど、どの工程で何を任せればいいのか分からない。そんな悩みを持つ推進担当者に向けて、この記事では社内ベンチャーにおける生成AIの活用方法を工程別に解説します。

活用が進まない原因から、アイデア創出や市場調査での使い方、人が判断すべき事項までをまとめた内容です。自社のプログラムで生成AI活用を始めるための参考にしてください。

社内ベンチャーで生成AI活用が注目される背景

社内ベンチャー 生成AI

新規事業開発の現場では、生成AIを取り入れる動きが広がっています。背景にあるのは、社内ベンチャーという仕組みが抱える構造的な制約です。限られた期間と人員で事業性を判断しなければならず、従来の進め方では検証が追いつかなくなりました。ここで押さえておきたいのが、活用が注目される2つの理由です。

事業開発のスピードが競争力を左右する

社内ベンチャーの成否は、仮説を立ててから検証するまでの速さに左右されます。市場環境の変化が速く、調査に数週間かけている間に前提そのものが変わってしまうためです。多くの企業ではステージゲート方式で審査時期が決まっており、担当者は限られた期間で事業性の根拠を揃えなければなりません。

情報収集や資料作成に生成AIを使うと、この時間の制約を緩められるのが利点です。同じ期間でも検証を回せる回数が増え、判断の材料を厚くできます。スピードそのものが、社内ベンチャーの競争力を決める要素です。

少人数チームのリソースを補える

社内ベンチャーのチームは、3名から5名程度の体制で組まれることが多いです。メンバーの多くは既存事業と兼務しており、事業開発に割ける時間は限られます。特に手が回りにくいのは、次のような作業です。

  • 競合サービスの情報収集
  • 議事録や発言録の整理
  • 企画書のたたき台作成
  • アンケート項目の作成
  • 定例報告用の資料づくり

これらは判断を伴わない作業のため、内容を確認したうえで使えば事業の方向性に影響しません。担当者が向き合うべきなのは、顧客との対話や事業性の見極めです。人手が足りない状況でも、事業開発の質を保ちやすくなります。

社内ベンチャーで生成AI活用が進まない原因

社内ベンチャー 生成AI

生成AIの有用性を理解していても、社内ベンチャーの現場で活用が定着しないケースは多く見られます。原因の多くは、ツールの性能ではなく運用面の準備不足です。使う工程も、扱ってよい情報の範囲も、出力を確認する担当も決まらないまま導入だけが進んでしまいます。推進担当がつまずきやすい原因は、次の3つです。

活用できる工程を把握できていない

活用が止まる最大の原因は、任せられる業務の範囲を整理できていない点にあります。事業開発のどの工程で使えるのかを一覧で押さえることが出発点です。工程ごとの役割分担は、次のように整理できます。

工程生成AIに任せられる業務人が担う業務
アイデア創出案の発散と分類採用テーマの選定
市場調査情報収集と要約情報源の妥当性確認
顧客課題の整理発言録の構造化課題の重要度の判断
企画書作成構成案の作成数値根拠の確定
仮説検証検証項目の洗い出し投資可否の判断

表のとおり、生成AIが担うのは情報を集めて形にするまでの範囲です。何を選び、どこに投資するかという判断は人に残ります。線引きを共有しておけば、チーム内で使いどころの認識がそろいやすくなるはずです。

機密情報の取り扱い基準がない

2つ目の原因は、入力してよい情報の範囲が決まっていない点です。社内ベンチャーが扱うのは、未公開の事業計画や顧客企業から預かった情報が中心になります。判断に迷いやすいのは、次のような情報です。

  • 未公開の新規事業の企画内容
  • 顧客企業から預かった資料
  • 社内の売上や原価のデータ
  • 特許出願前の技術情報
  • 人事や採用に関わる情報

多くの企業では、入力内容が学習に使われない法人向けプランを契約して対応しています。必要なのは、その前提を踏まえて入力してよい情報と避ける情報を文書で示すことです。基準が定まれば、現場は迷わずに使い始められます。

出力内容を検証する担当がいない

3つ目の原因は、生成AIの出力をだれが確認するのかが決まっていない点です。生成AIは事実と異なる内容をもっともらしく示す場合があり、数値をそのまま資料に転記すると誤りが残ります。

社内ベンチャーの企画書は、経営層が投資を判断するための資料です。誤った数値が混じれば、企画そのものの信頼が揺らぎます。確認の担当者と手順が決まっていないチームでは、出力を使うこと自体が避けられていくのが実情です。

官公庁の統計や企業のIR資料で裏取りする手順を組み込めば、この不安は解消できます。

工程別に見る生成AIの使い方

活用できる範囲を把握できたら、次は工程ごとの具体的な使い方を押さえていきます。大切なのは、何を入力し、どのような形で出力させるかを決めておくことです。

指示があいまいなままでは、一般論の域を出ない出力しか返ってきません。工程ごとに入力と出力を設計することが、成果を分けるポイントです。

アイデア創出|発想の幅を広げる

アイデア創出では、自社だけでは出てこない切り口を引き出す使い方が向いています。出発点になるのは、解決したい課題と自社が持つ資産の情報です。生成AIに渡す材料は、次の項目にまとめられます。

  • 解決したい顧客の課題
  • 自社の技術や販路
  • 対象とする市場や地域
  • 避けたい事業領域
  • 想定する事業規模

これらを提示したうえで30案ほど出させ、粗い案も含めて広げるのが効果的です。出そろった案は、市場性と自社の強みを軸に分類させると比較しやすくなります。最終的にどの案を進めるかは、担当者が事業戦略と照らして決める領域です。

市場調査|情報収集を短縮する

市場調査で生成AIが担うのは、情報を集めて要約するまでの作業です。調べる項目を先に決めておくと、出力の精度が上がります。項目ごとの分担は、次のとおりです。

調査項目生成AIに任せる作業裏取りに使う情報源
市場規模公開情報の収集と要約官公庁の統計や白書
成長性予測データの整理業界団体の調査レポート
競合企業各社の特徴の比較企業のIR資料や公式サイト
価格帯相場の把握各社の公開価格
規制動向関連法令の洗い出し省庁の公表資料

表の右列にあるとおり、数値の根拠は一次情報で必ず確認します。生成AIの出力は、調査の入り口を短縮するための下書きです。裏取りまで含めても、従来より短い時間で調査を終えられます。

インタビュー|顧客課題を整理する

顧客インタビューでは、記録の整理に時間を取られがちになります。文字起こしを渡して構造化させるのが、生成AIの得意な使い方です。整理を依頼する切り口は、次のように指定します。

  • 顧客が困っている場面
  • 現在の代替手段
  • 不満に感じている点
  • 費用や時間の負担
  • 発言に出た要望

複数人分の記録をまとめて渡せば、共通して挙がった課題を抽出できるのも利点です。発言の頻度と切実さを分けて整理させると、優先順位をつける材料になります。どの課題を事業の起点に据えるかは、担当者が顧客の反応を踏まえて決める判断です。

企画書構成と根拠を組み立てる

企画書の作成では、構成づくりと根拠の補強という2段階で生成AIを使います。最初に依頼するのは、審査で問われる論点を漏れなく並べた構成案です。課題、解決策、市場性、収益モデル、実行体制といった要素を指定すると、抜けの少ない骨組みが返ってきます。

次の段階で取り組むのは、各項目の主張を支える数値と出典の補強です。市場規模や想定顧客数の算出根拠を書き出させ、前提条件を明示させます。ただし数値そのものは公表資料で確認したうえで、最終的に確定させるのは担当者の役割です。

事業仮説|検証項目とリスクを設計する

仮説検証の工程では、何を確かめれば事業の可否を判断できるのかを洗い出す作業に生成AIが向いています。事業計画を渡し、成立の前提になっている条件を列挙させるのが最初の一歩です。

挙がった前提には、外れたときの影響度と確認のしやすさで順位をつけさせます。影響が大きく、かつ確認に手間がかかる項目ほど、先に検証すべき対象です。

検証を終えた後は、結果と当初の仮説の差分を整理させると次の打ち手を考えやすくなります。撤退や方針転換の判断そのものは、経営層と担当者が担う領域です。

社内ベンチャーにおける生成AIと人の役割分担

社内ベンチャー 生成AI

工程ごとの使い方が見えてくると、次に迷うのは任せる範囲の線引きになります。生成AIに任せすぎれば判断の質が下がり、任せなさすぎれば時間の余裕が生まれないのが実情です。判断の基準は、その作業に事業の責任が伴うかどうかで分けられます。ここで押さえたいのは、任せる作業と人が担う事項の具体的な中身です。

生成AIに任せる作業

任せる目安になるのは、事業の責任を伴わない再現性の高い作業です。手順が決まっていて、成果物が下書きの段階で足りる作業が当てはまります。具体的には、次のような作業が対象です。

  • 調査結果の要約と比較
  • 発言録からの課題抽出
  • 企画書の構成案づくり
  • 想定される反論の洗い出し
  • 用語や表現の統一

これらは出力をそのまま使うのではなく、たたき台として扱う前提で任せます。手直しの時間を含めても、担当者が一から作るより短く済むのが利点です。時間が空いた分は、顧客との対話や社内調整に振り向けられます。

人が判断すべき事項

人が担うのは、事業の成否と責任に直結する判断です。生成AIは過去の情報をもとに出力するため、自社の戦略や現場の温度感までは反映できません。採択するテーマの決定、投資額の設定、撤退の見極めは、担当者と経営層が背負う領域です。

顧客が本当に困っているのかという実感も、対話を重ねた人にしか判断できません。出力を採用するかどうかを最後に決めるのも、人の役割です。この線引きをチーム内で共有しておくと、生成AIを使うことへの社内の抵抗も和らいでいきます。任せる範囲と守る範囲を決めることが、活用を定着させる前提です。

社内ベンチャーで生成AI活用を始める手順

社内ベンチャー 生成AI

工程ごとの使い方と役割分担が整理できたら、自社のプログラムで運用を始める段階に入ります。全社に一斉展開するより、範囲を限って始めるほうが定着しやすいのが実情です。

先にルールを決め、対象を絞って試し、得られた成果を社内へ広げる順で進めます。推進担当が踏むべき手順は、次の3つです。

利用ルールと情報管理を整備する

最初に取り組むのは、入力してよい情報と出力の扱いを定めるルールづくりです。基準が文書になっていれば、担当者は個人の判断で悩まずに済みます。決めておく項目は、次のとおりです。

決める項目記載する内容
利用するツール法人契約で学習に使われない環境
入力してよい情報公開情報と社内の一般資料
入力を避ける情報未公開の企画と顧客の預かり資料
出力物の確認者工程ごとの確認担当と手順
社外提出時の扱い生成物を使った資料の申告方法

ルールは情報システム部門や法務部門と作ると、後の展開が進めやすくなります。分量を多くする必要はなく、A4で1枚程度に収める形で十分です。迷ったときに立ち返れる基準があれば、現場は安心して使い始められます。

工程を絞ってスモールスタートする

次の段階では、対象を1案件1工程に絞って試します。全工程へ同時に広げると、どこで効果が出たのかを検証できない状態です。最初に選ぶなら、市場調査や議事録の整理といった成果を測りやすい工程が向いています。

効果を確かめる指標は、作業時間の変化と成果物の手直し量です。従来は3日かかっていた調査が1日で終わったといった形で、数字に残していきます。

期間は1か月ほどで区切ると、振り返りのタイミングをつくりやすいはずです。手応えを確認できた工程から、対象を少しずつ広げていきます。

成果を共有し社内へ横展開する

効果を確認できたら、得られた知見を他のチームでも使える形に整えます。属人的な使い方のままでは、担当者が異動した時点で止まってしまう状態です。テンプレートとして残す対象は、次のように整理できます。

  • 工程別のプロンプト例
  • 入力する情報の項目
  • 出力の確認チェック項目
  • 失敗した指示の記録
  • 時間短縮の実績値

社内ポータルや共有フォルダにまとめておくのが、横展開を進めやすくする方法です。月に一度ほど活用事例を持ち寄る場を設けると、更新が続きやすくなります。実績が積み上がるほど、社内ベンチャー全体の事業開発は速くなるはずです。

まとめ:社内ベンチャーの各工程で生成AIを使い分ける

社内ベンチャーで生成AIが力を発揮するのは、アイデア創出から仮説検証までの情報を扱う工程です。一方で、採択するテーマの決定や投資額の設定といった判断は、担当者と経営層に残ります。

始めるときは、利用ルールを先に決めたうえで、1案件1工程から試すのが進めやすい方法です。任せる範囲と守る範囲を線引きして、自社の社内ベンチャーで生成AIを使い分けていきましょう。