「ディープテック企業には、どのような企業があり、新規事業にどう活かせるのだろう」と考えていませんか。AIや宇宙、バイオなどの先端技術は、自社のビジネスから遠く感じるかもしれません。しかし、取り組みをひも解くと、新規事業につながる意外な接点が見えてきます。
本記事では、日本・海外の注目企業7社と技術領域を紹介します。各社の事例から、自社にも活かせる事業のヒントを探してみましょう。
ディープテック企業とは

ディープテック企業は、AIや宇宙、バイオなどの高度な技術を、社会で役立つ形へ発展させていく企業です。重要なのは、どのような技術を持っているかだけではありません。
その技術をどう育て、ビジネスへつなげていくのかにも、ディープテック企業ならではの特徴があります。ここでは、2つの視点からディープテック企業について見ていきましょう。
研究成果を事業につなげる企業
大学や研究機関などで生まれた研究成果は、すぐに製品やサービスとして使えるとは限りません。事業化するには、試作品の開発や実証実験を通じて、技術が実際に使えるのか、顧客のニーズがあるのかを確かめる必要があります。
さらに、検証で見つかった課題を改善しながら、実用化に近づけていくことも欠かせません。こうした検証を重ねながら、研究段階の技術を実際に使える製品やサービスへと形にしていくのがディープテック企業です。研究と社会をつなぐ役割を担っているといえるでしょう。
長期的な研究開発を強みとする企業
研究成果を製品やサービスへ発展させるには、長い時間を要することも珍しくありません。技術の検証や改良を繰り返しながら、性能や安全性を高めていく必要があるためです。
一方、長い研究開発の期間は、企業の強みにもなります。研究を続けるなかで、独自の技術やデータ、ノウハウが少しずつ蓄積されていくでしょう。
蓄積された知見を活かすことで、技術のさらなる向上も期待できます。長年かけて築かれた技術は他社が簡単に再現しにくく、競合との差別化につながります。研究の積み重ねそのものが、企業の競争力へと変わっていくのです。
ディープテック企業で注目される技術領域

ディープテックは幅広い技術領域に広がり、それぞれ異なる形で事業化が進んでいます。
新規事業を検討する際は、技術そのものだけでなく、どのような市場や事業につながっているのかを見ることも大切です。ここでは、代表的な4つの領域から、技術がどのようにビジネスへ展開されているのかを見ていきましょう。
デジタル領域
AIや量子技術、ロボティクスなどを扱うのがデジタル領域です。既存産業と組み合わせやすく、製造や物流、小売など身近なビジネスにも活用が広がっています。人手不足や業務効率化といった、企業が抱える課題の解決にも役立つでしょう。
- ロボットによる工場作業の自動化
- AIを活用した売上や需要の予測
- 物流や店舗での作業の効率化
デジタル領域では、先端技術と自社がすでに持つ強みを組み合わせる方法もあります。自社のデータや製造技術、既存サービスとの掛け合わせが、新たな事業機会を探るきっかけになります。
ライフサイエンス領域
ライフサイエンス領域では、生命科学の知見を活かし、医薬品や治療法、食品、新素材などの開発が進んでいます。微生物や細胞など、生物が持つ仕組みを利用した製品や技術も生まれてきました。活用できる分野が幅広い点も特徴といえるでしょう。
ポイントは、一つの技術を異なる用途へ展開できることです。ある分野で培われた技術が、別の業界の製品開発に応用されるケースも珍しくありません。既存の用途にとらわれず、新たな市場との接点を探せるところに、ライフサイエンスならではの面白さがあります。
フロンティア領域
宇宙や航空など、これまで参入のハードルが高かった分野にも、ビジネスとして活用できる範囲が広がっています。なかでも宇宙ビジネスは、ロケットを飛ばすことだけが目的ではありません。宇宙から得られるデータは、地上のさまざまな場所で使われ始めています。
- 衛星データを活用した災害状況の把握
- 衛星データによる農地やインフラの監視
- 衛星通信を活用したサービス
かつて宇宙開発の中心だったのは、宇宙へ「行く」ための技術でした。現在は、宇宙から地球を「見る」、離れた場所を「つなぐ」といった使い方が、新たなビジネスを生み出しています。
環境・エネルギー領域
環境・エネルギー領域では、脱炭素や資源不足など、地球規模の課題解決に高度な技術で取り組んでいます。次世代の太陽電池や蓄電池など、長年研究されてきた技術も実用化へ近づいてきました。
興味深いのは、「減らす」「捨てる」対象だったものを、価値ある資源へ変える発想です。CO2や廃棄物を回収し、新たな素材や燃料の原料として活用する技術も生まれています。環境負荷を抑えるだけでなく、不要だったものに新たな価値を生み出す視点は、これからのものづくりや新規事業を考えるヒントになるでしょう。
日本の代表的なディープテック企業4選

さまざまな技術領域で、研究成果をビジネスへつなげる動きが広がっています。
日本でも、独自の技術を活かして事業化に取り組む企業が登場してきました。ここからは代表的な4社を取り上げ、それぞれが「技術をどうビジネスに変えたのか」を見ていきましょう。
1|Telexistence(テレイグジスタンス )

Telexistenceは、AIやロボティクスを活用し、小売業の人手不足という課題に取り組む企業です。開発したロボットは店舗の商品補充などを担っており、主なポイントは次の3つにまとめられます。
- AIとロボティクスを組み合わせた技術開発
- 小売店舗での商品補充作業の自動化
- ロボットによる店舗スタッフの作業負担軽減
開発された技術が、実際の店舗で働くロボットへと姿を変えました。人手不足という身近な課題に先端技術を結びつけ、現場で使えるサービスとして事業化しています。
2|Synspective(シンスペクティブ )

Synspectiveは、小型SAR衛星の開発・運用から、衛星データの活用まで手掛ける企業です。宇宙から集めたデータを、地上のさまざまな分野で活用しています。主な活用例を見てみましょう。
- 地盤変動のモニタリング
- 災害状況の把握
- インフラや森林の管理
SAR衛星は、天候や時間帯に左右されにくく、地表の変化を捉えられるのが強みです。得られたデータを解析し、企業や行政が利用できるサービスへと発展させました。「衛星をつくる」だけでなく「衛星データを使う」ところまで事業にしている点が特徴といえるでしょう。
3|京都フュージョニアリング

京都フュージョニアリングは、核融合発電に必要な装置やシステムを開発する企業です。核融合で生まれたエネルギーを実際の発電につなげる技術にも取り組んでいます。熱を取り出す装置や燃料を循環させるシステムなど、幅広い技術を手掛けてきました。
核融合の研究が進んでも、社会で使える形にならなければ実用化には至りません。大学で培われた知見と日本のものづくりを掛け合わせ、必要な技術を形にしています。核融合を「研究」から「産業」へつなぐ役割を担っている企業です。
4|ユーグレナ

ユーグレナは、微細藻類の研究成果をさまざまな事業へ展開する企業です。よく知られているのは食品やサプリメントですが、活用先はそれだけにとどまりません。微細藻類に関する研究や技術を、食品や化粧品、バイオ燃料など幅広い分野へ展開してきました。
さらに、微細藻類などを原料に活用したバイオ燃料「サステオ」の開発にも取り組んでいます。身近な食品からエネルギーまで、同じ微細藻類の可能性を活かして事業を展開している点がポイントです。研究で培った技術を一つの製品で終わらせず、幅広い分野へ発展させている企業といえるでしょう。
海外の代表的なディープテック企業3選

海外でも、研究成果を社会で使える形へ発展させ、ビジネスにつなげる企業が登場しています。技術を事業へ育てる方法は企業によって異なり、独自のアプローチで実用化を進めてきました。ここからは、海外の代表的な3社が、どのように技術をビジネスへつなげているのかを見ていきましょう。
1|PsiQuantum(サイ・クアンタム )

PsiQuantumは、量子コンピューターの実用化を目指す企業です。特徴は、計算に使う「量子ビット」に、光の粒である「光子」を利用していることにあります。主な取り組みを見てみましょう。
- 光子を利用した量子ビットの開発
- 半導体の製造技術を活かした部品の開発
- 多くの量子ビットを扱うシステムの構築
なかでも注目したいのは、すべてを一からつくるのではなく、半導体産業で培われた製造技術を活かしていることです。すでにある技術や設備を取り入れることで、大規模な量子コンピューターの実現を目指しています。
2|SpaceX(スペースエックス )

SpaceXは、ロケットや宇宙船を開発する宇宙企業です。代表的なロケット「Falcon 9」では、打ち上げ後に機体の一部を回収し、再び利用する仕組みを取り入れました。
これまで、「使い捨て」が一般的だったロケットを「再使用」へ転換したことで、宇宙輸送のあり方を変えています。機体を繰り返し使うことで、打ち上げにかかるコストの低減につなげてきました。さらに、衛星の打ち上げや国際宇宙ステーションへの物資輸送などにも活用されています。ロケットの再使用によって、宇宙を利用する機会を広げてきた企業といえるでしょう。
3|Ginkgo Bioworks(ギンコ・バイオワークス )

Ginkgo Bioworksは、細胞を目的に合わせて設計し、その技術を企業に提供する会社です。「セルプログラミング」と呼ばれる技術を活用し、さまざまな企業の研究開発を支えてきました。活用される分野は多岐にわたります。
- 医薬品の研究開発
- 食品や食品原料の開発
- 化粧品や原料の開発
- 農業や新素材の開発
ポイントは、一つの製品をつくるのではなく、他社が新たな製品を生み出すための基盤を提供していることです。培った技術や研究環境を幅広い企業に提供することで、バイオ技術が活用される分野を広げてきました。
ディープテック企業に学ぶ3つの着眼点

ここまで紹介した企業を見ると、技術を事業へつなげる方法は一つではないことがわかります。では、自社で新規事業を検討する場合、どこに目を向ければよいのでしょうか。ここからは、自社の強みを活かすヒントとして、ディープテック企業の事例から見えてくる3つの着眼点を紹介します。
1|技術ではなく課題から探す
新規事業を考えるときは、まず自社や顧客が「何に困っているのか」を整理してみましょう。身近な困りごとのなかに、事業のヒントが隠れていることもあります。
- 人手不足を解消したい
- 業務を効率化したい
- 環境負荷を減らしたい
- 新たな市場を開拓したい
解決したいことが明確になれば、そこから必要な技術や企業を探せます。「何を解決したいのか」を軸に選択肢を絞れば、技術の導入そのものが目的になるのを防げるでしょう。課題を出発点にすることで、自社の事業と先端技術との接点も探しやすくなります。
2|自前主義から脱却する
大学や研究機関、スタートアップとの連携は、自社にない技術や専門知識を取り入れる方法の一つです。すべてを一から開発するのではなく、外部の力を借りることで、新規事業の可能性を探りやすくなるでしょう。
一方、自社が持つ顧客とのつながりや製造設備、販売ルートなども大きな資産です。外部の技術と自社の強みを掛け合わせれば、それぞれ単独では生み出せなかった製品やサービスにつながる可能性もあります。互いの強みを持ち寄り、足りない部分を補い合う視点が、事業の選択肢をさらに広げていくでしょう。
3|小さく試して事業化につなげる
新しい技術を見つけても、すぐに大きな投資を決める必要はありません。まずは小さく試し、「本当に使えるのか」「顧客に求められるのか」を確かめながら、次の判断につなげていきましょう。検討する際は、次のような流れが考えられます。
- 用途の仮説を立てる
- 試作品や実証実験で確かめる
- 顧客から反応を得る
- 結果をもとに改善する
小さな検証から始めれば、技術の可能性だけでなく、顧客の反応や事業としての手応えも見えてきます。その結果をもとに「続ける・見直す・方向を変える」と判断しながら、事業化への道筋を具体化していきましょう。
まとめ|ディープテック企業から新規事業の可能性を探ろう
ディープテックは、遠い世界の最先端技術ではありません。さまざまな企業が高度な技術を社会で使える形へ変え、新たなビジネスを生み出しています。
大切なのは、技術そのものを追いかけるのではなく、「自社の課題や強みと何を掛け合わせられるか」という視点です。国内外の企業の取り組みをヒントに、自社だからこそ生み出せる新たな事業の可能性を探してみましょう。
